2025/06/30 00:48
English Summary below◆
国指定伝統工芸品・秩父銘仙
秩父銘仙は、埼玉県西部「秩父地方」の伝統的な絹織物です。
銘仙とは、染色した絹糸を平織した織物で、織る前に糸を染めることで、裏表のない生地に仕上がるのが特徴です。
明治時代に「ほぐし捺染」の技術が開発されたことで、大胆な模様の表現が可能になり、銘仙は大正から昭和初期にかけて大流行しました。
「ほぐし捺染」とは、仮織りした経糸(たていと)に型を使って捺染してから整織する技法で、模様がわずかにかすれる柔らかな表現になります。
銘仙の五大産地は、伊勢崎、足利、桐生、八王子、そして秩父ですが、現在も継続的に生産を続けているのは秩父のみです。
なかでも秩父銘仙では、「ほぐし捺染」による経糸の柄と、無地の緯糸(よこいと)との組み合わせによって、見る角度によって色彩が変化する「玉虫効果」が生まれることもあります。
100年以上続くその技術と美しさは、国の伝統的工芸品にも指定され、高く評価されています。
舞鶴工房では、この伝統を尊重しつつも、異なる分野の技法や表現を重ね合わせることで、秩父銘仙の新たな可能性を探っています。
歴史と背景
秩父地方は山に囲まれた盆地で、平坦な土地は少なく、水田に適した土壌も限られていました。
しかし桑の栽培は可能だったため、古くから養蚕が盛んに行われていました。
そして規格外の絹糸を使い、自分たちの野良着を生産していました。
そうして生まれたのが、秩父銘仙の前身である「秩父太織(ふとおり)」です。
丈夫なその布は評判を呼び、秩父の織物産業は大きく発展していきました。
織物による経済成長は、地域の文化にも影響を与えました。
秩父夜祭の豪華な山車を新調できるようになったことは、繊維産業の繁栄を象徴するエピソードのひとつです。
明治時代に入ると、地元の坂本宗太郎氏が「ほぐし捺染」の技法で特許を取得。
さらに海外から鮮やかな化学染料がもたらされたことで、色彩豊かな模様の銘仙が誕生しました。
こうして秩父銘仙は、大正から昭和初期にかけて、若い女性や女学生たちの間で爆発的な人気を博します。
モダンで大胆なデザインは、「おしゃれ着」として一世を風靡しました。
その後、化学繊維や大量生産、また安価な輸入製品の広がりにより、銘仙をはじめとする織物産業は衰退。
一時は「逸見織物」一社だけが、銘仙の生産を続けていた時期もありました。
しかし地元の声と努力により、現在では数社、銘仙の製造に携わっています。
秩父銘仙の技法 ― ほぐし捺染の工程
秩父銘仙は、分業制によって専門化された技術のもとに作られてきました。
しかし近年は職人の減少により、一つの工房で複数の工程を担うケースも増えています。
以下は、ほぐし捺染による秩父銘仙の主な制作工程です。

1. デザイン
およそ縦60~70cm、横40cmの単位で模様を描きます。
連続性を意識したデザインが求められます。
2. 型彫り
完成したデザインをもとに、色ごとに型紙を作ります。
伝統的には専用の和紙に小刀で文様を切り抜き、補強のために「紗(しゃ)」という布を、カシュー塗料で定着させます。
近年では、シルクスクリーンを使用することも一般的です。
3. 整経(せいけい)
使用する経糸(たていと)を揃えて、巻き取ります。
秩父銘仙では1300~1600本もの経糸が使われます。
4. 仮織り
経糸を織機に通します。
まず枠にセットされた綜絖(そうこう)という穴のある針金に、一本一本経糸を通し、次に筬(おさ)に二本ずつ通します。
そして経糸を粗く、Z字状に織ります。
これは後の染色のための「仮の織り」で、本織りではありません。
5. 捺染(なっせん)
仮織りされた経糸に、型を使って模様を染めます。
そして色を定着させるために、蒸し工程が入ります。
6. 整織(せいしょく)
経糸の模様に合わせて緯糸(よこいと)を染め、本織りに入ります。
仮織りの緯糸を「ほぐし取り」ながら、新たな緯糸を織り込んでいくため、この技法は「ほぐし捺染」や「ほぐし織り」と呼ばれます。
これらの複雑な工程を経て、ようやく一反の秩父銘仙が完成します。
この一連の工程をわかりやすく紹介した動画を、末尾に掲載しています。
制作記録:POLYMORPH(ポリモーフ)

制作のきっかけ
フルカラーのグラデーションに挑戦したことで、さらに陰影を布でどう表現できるかをテーマに据えました。
コンセプトとデザイン
今回は「融合」がテーマ。
デザインフェーズでは、コンピュータで立体的な麻の葉文様をモデリングし、秩父銘仙の特徴でもある「経絣(たてがすり)」の表現を最大限に活かすため、縦方向のストロークで陰影を描きました。
また2種類の図案の型を、1つの反物に合わせて使用しました。
技法と制作プロセス
コンピュータで描いた線は硬く無機質になってしまうため、型は手作業で彫刻し、やわらかい印象を残しました。
図案はピタゴラスの定理や、CG技術を活用し、最終的に秩父銘仙という素材の限界に挑戦した作品となっています。
こちらは、縞銘仙の動画です。
綜絖や筬に糸を通す様子もご覧いただけます。
綜絖や筬に糸を通す様子もご覧いただけます。
English Summary ◆ Chichibu Meisen
Chichibu Meisen is a traditional silk textile from the Chichibu region of western Saitama.
By dyeing the yarn before weaving, the fabric becomes reversible, with intricate patterns emerging through a unique method called "hogushi-nassen (stencil printing on loosely woven warp yarns)".
Its shimmering iridescent effect—created by combining patterned warps and plain wefts—is one of Chichibu Meisen's defining features.
This technique, developed in the Meiji era, gave rise to the bold and colorful designs that made Meisen immensely popular among young women in the early 20th century.
Today, Chichibu is the only region still producing Meisen on a regular basis.
Designs are carved into stencils, printed onto temporarily woven warps, then rewoven with dyed wefts.
Despite the complexity of the process, Chichibu Meisen continues to survive—thanks to the quiet dedication of a handful of local artisans.
At Maizuru Kobo, we honor these traditions while pushing the expressive limits of Meisen through new techniques, ideas, and technology.
Featured Work: POLYMORPH (click here)
This experimental piece explores the expression of light and shadow in Meisen.
We used CG to model a three-dimensional asanoha (hemp leaf) pattern and designed vertical shading lines that would best suit Meisen’s warp-resist method.
To avoid a mechanical look, the stencils were hand-carved.
Combining digital tools with analog craftsmanship, this work merges printing logic, geometry, and the aesthetics of woven silk—challenging the expressive limits of Chichibu Meisen.